社会保険労務士(社労士)の資格取得を検討されている方に向けて、試験内容の全10科目をわかりやすくまとめました。
法律ということで取っ付きにくい印象はあると思いますが、いずれも慣れてしまえばどうってことはありません。
まずは社労士資格の全体像を理解していただければと思います。
今後試験を受けるかどうかのヒントになれば幸いです。
社労士資格について知りたい方や、資格を受ける上でのメリットについては、以下の記事で詳しく解説しています。
サラリーマンが社労士の資格を取る決意をしたキッカケとメリットを紹介
社会保険労務士(社労士)とは
まずは社会保険労務士という職業についてざっとおさらいです。
社会保険労務士(略して社労士)とは労働関連や社会保険などの法律に特化した、人材に関する専門家です。
社労士の仕事は大きく3つに分類されます。
- 手続き代行(1号業務)
- 労働社会保険諸法令に基づく帳簿書類の作成(2号業務)
- 人事労務管理のコンサルティング(3号業務)
中でも1号業務と2号業務は社労士の独占業務となっています。
独占業務とは、資格を持っている人が独占して業務を許されている資格のことです。つまり、社労士にしか業務を行うことができないということです。
社労士の魅力としては、学習内容が非常に面白く、私生活にも役立つことが挙げられます。この記事を読んでいるほとんどの方がサラリーマンだと思います。会社で働く上での労働条件に関する法律や怪我や病気などの保険に関する法律。働く上で活かせる内容が多く、実務的なところが魅力的です。
このように専門的で法律に関する国家資格ということもあり、資格の難易度は高いと言えます。
一般的には資格の勉強時間として1,000時間は必要と言われておりますし、資格取得までの勉強期間にしても、人によっては6ヶ月から何年もかかる人がいます。
詳しいことについてはこちらも参考にしてください。
サラリーマンが社労士の資格を取る決意をしたキッカケとメリットを紹介
社労士試験の全10科目をわかりやすく解説
ここまで説明して、実際に社労士資格の試験科目について気になっている方もいると思います。
ここからは試験に出題される各科目について、1つずつわかりやすく解説していきます。
1.労働基準法 <労基>
労働基準法は労働条件の最低基準を定める日本の法律です。
全ての労働科目の基本となっている法律です。
そのため、労働基準法で規定されている事項は労働者の労働条件として最低限度の内容となっています。
例えば、使用者である企業と労働者で、労働基準法の内容を下回る労働条件で契約を結んでしまった場合でも、その内容は無効になるということです。
このように労働基準法は、労働者の保護を目的とする役目を担っています。
普段働かれている人にとっては一番身近に感じられる科目かもしれません。
主な内容としては、以下のものが挙げられます。
- 就業規則
- 労働契約
- 解雇
- 労働時間・休憩・休日
- 年少者と妊産婦の保護
- 賃金
- 雑則
- 罰則
各項目の詳しい説明は割愛しますが、項目を見ていただいただけでも、聞いたことあるような言葉がほとんどだと思います。
2.労働安全衛生法 <安衛法>
次は労働安全衛生法で、略して安衛法と呼ばれています。
労働安全衛生法とは、労働者の安全と健康を確保し、快適な職場環境の構築を促進することを目的とした法律です。
もともとは労働基準法の中にあったのですが、高度経済成長による労働災害死亡者が多発していた背景があり、独立した形となっています。
試験では「安全衛生管理体制」がよく出題されます。
ただこの安全衛生管理体制がクセモノで覚えるのに苦労します。各事業所は業種や規模に応じた管理者の配置を行わなければなりません。ここは個人的には覚えるまでが苦痛でした。
ただ逆に言えば、暗記さえすれば貴重な得点源となる科目なので、勉強を反復して叩き込み、モノにしましょう。
3.労働者災害補償保険法<労災>
ドラマや職場で聞いたことがあると思いますが「この怪我は労災おりる?」の労災(保険)に関連した法律、それが労働者災害補償保険法です。
労災保険は、事業の業種や規模を問わず、1人でも労働者を雇用している場合は、加入が義務となっている強制保険です。
労働災害による怪我や病気にかかる医療費、休業時の補償、障害が残ってしまった際の障害補償など、労働者を守るための内容が盛り込まれています。
他の社会保険と違い、納付はすべて事業主が行うことになっています。
労働者災害補償保険法は、社労士業務と深く関わってくる科目なので、実際に事故が起きたことを想定して勉強すると覚えやすいですよ。
4.雇用保険法 <雇用>
雇用保険は労働者の生活や雇用の安定、就職の促進のため、労働者がたとえ失業しても安心して暮らせるように、給付金の支給や就職活動の支援などを行っている保険制度のことです。
雇用保険事業は主に以下の3つで成り立っています。
- 給付(失業等給付の4つの給付、育児休業給付)
- 雇用安定事業(助成金など)
- 能力開発事業(職業訓練施設の運営、助成金など)
給付を例に、もう少しわかりやすく説明します。
給付を行うことで、失業から就職して安定するまでをサポートしているイメージです。
- 「求職者給付」で求職活動を支援し、
- 「就職促進給付」でそのモチベを高め、
- 「教育訓練給付」でスキルアップを手助け、
- 「雇用継続給付」で、雇用継続のバックアップ
安定して働いていく上で、とても重要な位置づけにあるのが、雇用安定法です。
5.労働保険の保険料の徴収等に関する法律 <徴収>
労働保険の保険料の徴収等に関する法律(労働保険徴収法)とは、労災保険と雇用保険からなる労働保険について、保険料や納付方法などを規定した法律です。
もっと噛み砕くと、労働保険料の申告・納付の手続きマニュアルのようなものです。
労働保険法はその特性上、数字に関する問題が多く出題されます。ただ過去問に似たような問題の出題パターンが多いので、過去問をしっかり勉強しておくことが対策となります。
あとは徴収の仕組みや方法をしっかり理解すると、数字が苦手な人も克服できそうです。
6.労務管理その他の労働に関する一般常識 <労一>
労務管理その他の労働に関する一般常識は、社労士試験では労一と略されます。
労一は大きく以下の3つに分けられます。
- 労働関係諸法令
- 労働経済
- 人事労務管理
すべての科目の中でも、試験対策がとても難しい科目となっています。
理由としては試験範囲が広いことに加えて、意表を突くような問題が出題されることもあるためです。
ただ条件は他の受験生も同じです。周りが得点できるような問題は確実に取れるよう勉強しておきましょう。
7.健康保険法 <健保>
健康保険法とは、健康保険に加入している労働者(被保険者や被扶養者)が病気や怪我を負った時の医療給付、また病気や出産で働けなくなった際の保険給付などについて定めた法律です。
健康保険はみなさんも身近なものだと思います。実際に自分が使う立場として考えながら勉強すると、頭に入ってきやすいかと思います。
また、医療保険制度の全体像から勉強するようにすると、健康保険を体系的に理解しやすくなるかと思います。
8.国民年金法 <国年>
国民年金制度について定めた法律です。
- 老齢
- 障害
- 死亡
の側面から、国民が安定した生活を過ごせることを目的としています。
こちらも制度自体が複雑なものになっているので、まずは年金や保険に対する全体像を理解することから始めましょう。理解まで根気よく勉強です。
また国民年金法では被保険者が第1号被保険者、第2号被保険者、第3号被保険者と3種類に分かれているので、それぞれの特徴を理解して頭で整理できるようにしておく必要があります。
9.厚生年金保険法 <厚年>
日本の年金制度は2階建て構造となっています。1階には、先程も説明しました、20歳〜60歳未満の全ての国民が加入している国民年金があります。
その2階に「厚生年金」があるので、国民年金に上乗せされている年金となります。
厚生年金保険は公務員や会社員が加入する公的年金制度です。つまり会社勤めの人は、1階の国民年金だけの人よりも、多くの年金が受け取れるということになります。
ボリュームはある科目ですが、こちらも国民年金法と同様に、国民保険法や健康保険法と比較しながら覚えておくと、理解力が増します。
10.社会保険に関する一般常識 <社一>
「社会保険に関する一般常識(通称、社一)」は単独科目ではありません。
- 国民健康保険法
- 介護保険法
- 船員保険法
- 高齢者の医療の確保に関する法律
- 児童手当法
- 社会保険労務士法
- 確定給付企業年金法
- 確定拠出年金法などの法律
から主に出題されます。
現代の社会情勢を反映した試験科目となっており、日常的にネットやテレビなどでのニュースで、社会の動向を観察しておくようにしましょう。
まとめ | 基本は繰り返しがカギ
社労士資格に合格するには、平均1,000時間の勉強が必要だと言われています。
また様々な法律が絡んでいるため、全体の構造を理解するのに時間がかかります。
ただ基本構造を覚えない限り、応用問題や過去問でさえ解くことは難しいです。
最初の頃は基本に忠実に、何度も繰り返し繰り返し、反復勉強をして基本をマスターしましょう。
点数が偏っていくのは合格を目指す戦略上、よろしくありません。
全てを得意科目に、とまでは言いませんが、苦手科目がなくなるように、各科目の底上げを目指していきましょう。
社労士資格を受ける方の、少しでも参考になれば幸いです。